裁量労働制の実態とその影響 ― 2000年代前半の経験談
近年、働き方改革関連法案で「データ改ざん」が話題になる一方、実際に裁量労働制を導入した企業では様々な問題が生じています。この記事では、2000年代前半に経験した裁量労働制の現場と、その後の変化についてまとめます。
1. 裁量労働制の開始背景
社内の複数部署で突然裁量労働制が導入されました。適用は年収ではなく職位で決められ、本部長・部長以上は管理職として既に裁量労働制でした。私のポジションは課長格だったため、従業員側として扱われました。
給与への影響は「月20時間分の残業代手当」として付与されましたが、実際には平均60〜80時間働くケースも多く、サービス残業が常態化していました。36協定で報告できる時間に制限があったため、実際の労働時間はさらに増えていたと考えられます。
2. 裁量労働制下での業務運営
上司と成果を数字で決め、部署に割り当てた売上目標を120%超えることや納期・品質の確保を目的としていました。予算は売上と利益から自分で設定でき、相談すればアドバイスがもらえますが口出しはありませんでした。
チーム構成は社員+派遣社員で、優秀な派遣社員には調達権限を与えるなど、柔軟に人材を活用していました。結果として業務効率化・品質向上が進み、従業員は15〜16時に帰宅しジムへ通うことも可能になりました。
3. 実際の働き方と課題
一部ではサービス残業を強いられ、給与は低くても夜遅くまで勤務や休日出勤が続いていました。会社側は裁量労働制導入にあたりガイドラインを作成せず、従業員の自主性に任せていたため、責任放棄とみなされるケースも多いです。
また、成果が定量化できない部署や医師のように不規則な勤務時間が前提となる職場では、裁量労働制は逆にブラック企業の温床になり得ます。
4. 導入後の変化と学び
裁量労働制を採用した部署は業務縮小や労基指導を受け、ある程度正常化しました。赤字事業部が裁量労働制からリストラへ移行するケースも増えています。
この経験から、裁量労働制を採用する際に必要な条件は以下の通りです:
- 目標が定量化され、過去に優秀な社員が40時間で完了した実績がある業務
- 可視化された成果で平等に人事考課が行われること(長時間労働者を不当に評価しない)
- 月間・年間目標が明確で、早く終わったら次の仕事が増える仕組みではないこと
- 目標達成に必要な手段や権限が十分に移譲されていること
- 会社の利益率(粗利)を上回れば予算内で業務改善・編成が行える権限
- チームやプロジェクト単位で組織編成が一任できること
- 余裕があれば他部署からのヘルプが受けられないようにする仕組み
5. 今後の展望と提言
裁量労働制は、正しく設計されれば柔軟で効率的な働き方を実現できますが、不備があるとブラック化に繋がります。国会議員や労組・経済団体の有識者が協力し、条件を厳格に検討することが不可欠です。
「裁量労働制 全面撤回(3/1)」という極端な案は避け、上記のポイントを満たす制度設計を推進していくべきです。
※この記事は過去経験に基づくものであり、個別企業の状況によって異なる場合があります。詳細は専門家にご相談ください。