自由になりたい。
それはわがままではなく、人としてごく自然な、本能のような願いかもしれません。
けれど現実は、そんな願いを簡単には許してくれない。
家族、伝統、社会、歴史――私たちは生きていくうちに、知らず知らずのうちに無数の“しがらみ”の中で呼吸しています。
『獣の奏者』は、そうした「縛られた世界」の中で、それでも自分の目で命を見つめ、自分の意志で選びとろうとする人々の物語です。
この物語では、国家を揺るがすほどの力を持つ“獣”が登場します。
けれど、それを操ることができる者が、必ずしも力に酔うわけではない。
むしろその強大な命の前で、人は立ちすくみ、悩み、問い続けるのです。
「これは本当にしていいことなのか?」
「私はこの命にふさわしい存在なのか?」
「自由に生きるとは、どういうことなのか?」
自由とは、誰かから与えられるものではなく、自分で選び取り、自分の責任で背負っていくもの。
その重みと尊さが、この物語の静かな行間には、しっかりと刻まれています。
登場人物たちは皆、自分の選択に葛藤しながらも、その都度、何かを手放し、何かを守りながら生きていきます。
それは、現代を生きる私たちにも通じる問いです。
組織の中で、自分の信念をどう貫くか。
誰かを守るとき、どこまで自分を犠牲にするか。
「正しさ」と「大切なもの」がぶつかったとき、どう折り合いをつけるのか。
『獣の奏者』はファンタジーでありながら、現実の私たちの“内側”を静かに照らす鏡のような物語なのです。
そして、ぜひ外伝まで読んでみてください。
物語の余韻を深く味わったあとに待っているのは、まるで作者から直接言葉をかけられたような感覚です。
外伝のあとがきが素晴らしい。
この作者さんはこう考えて書いていたんだろうなと、よみながら思い浮かんでいたことをそのまま伝えてくれた。
エピソードの取捨選択の考えや、文系なのに外伝だけがやけに理系目線のシナリオだったその回答だ。
あとがきで、この作品の答え合わせをした気がする。
筆者談
この4冊は、読み終わってからが本当の始まりです。
あなたの中に眠る「自由への渇望」と、「命と向き合う覚悟」を、ぜひ見つめてみてください。