2025年6月現在、再びたつき諒氏の『私が見た未来』が注目を集めています。特に「2025年7月に日本を大津波が襲う」とする内容が一部で拡散し、旅行キャンセルや社会不安を生むまでに発展しています。
しかし、冷静にこの作品と「予言の的中」とされる事例を見ていくと、その多くは後付けの解釈、偶然、あるいは願望的思考の産物に過ぎません。今回は「13個も予言が当たっている」という主張の妥当性を検証し、なぜこのような非科学的噂を信じることが危険なのかを論じます。
■ 「13個当たった予言」は単なる偶然か
まず、多くのメディアやファンが強調する「15個のうち13個が当たった」とされる夢について確認してみましょう。たしかに、フレディ・マーキュリーの死、ダイアナ妃の事故死、2011年の東日本大震災など、現実と符合する記述がいくつかあります。
しかしこれらには、共通する大きな問題があります。
▲ 的中例に共通する3つの問題点
- 時期の幅が広い・曖昧
- 例えば「15年後に神戸が地割れ」といった記述は、実際の阪神大震災(1995年1月17日)とはズレがある。
- 「2011年3月に大災害が起きる」という予言も、地震か津波かは書かれておらず、あくまで「災害」という漠然としたイメージに過ぎない。
- 後付け解釈が可能な象徴的表現
- 「海底が裂ける」「空が真っ赤になる」など、自然災害やパニック映画の一場面にも使われそうな曖昧なビジュアル描写が中心。
- コロナウイルスのパンデミックなども、後からなら「ウイルスの夢=新型コロナだ」と結びつけられるが、事前に警告する力は皆無。
- 自分の引退や映画化の夢まで「的中」に含めている
- 「自分の葬式を見る」「自分の作品が映画化される」といった主観的・願望的な内容まで「的中」と数えており、予言としての厳密性はゼロ。
■ 外れた予言の数々——ここに注目すべき
一方で、完全に外れた予言も数多く存在しています。これらがあまり語られないのは、「当たったことだけを拡大する」という典型的なバイアスが働いているからです。
❌ 明確に外れた予言例
- 2021年の富士山噴火:何も起こらず
- 「2025年7月5日に日本とフィリピンの間に海底裂け目」:現時点でその兆候すらない
- 世界の終末、巨大隕石、海底火山の破裂:漠然としたパニック想像にすぎず、根拠なし
科学的には、地震・津波・火山噴火の「日時・場所・規模」を正確に予測することは現代のどの技術でも不可能とされています。にもかかわらず、絵や夢をもとに「7月5日」と断言するのは、科学を無視したオカルトに他なりません。
■ なぜ「予言」を信じる人が多いのか?
これは心理学的に言えば「後知恵バイアス」や「バーナム効果」が強く働いている典型です。
- 後知恵バイアス:「当たっていた」と後から意味づけする
- バーナム効果:誰にでも当てはまりそうな曖昧な内容を「自分に当てはまる」と思い込む
さらに、コロナ禍や災害が多い日本社会では「見えない不安」に人々が敏感になっており、「予言」が一種の安心材料や逃避先になっているという側面もあります。
■ 非科学的な噂が人を動かす危険性
今回の件で最も問題なのは、「7月に津波が来る」という噂を信じて、旅行のキャンセル・海外からの渡航取り止め・経済的損失が実際に発生しているという事実です。
さらに危険なのは、このような予言に依存し始めた人々が、次第に特定の団体やスピリチュアル商法に取り込まれるリスクです。
これは歴史的に、オウム真理教や終末思想系の新興宗教に見られたパターンと似ています。
■ 結論:「予言」は信じるべきではない
- 「13個当たった」などという主張は、解釈の幅と偶然が生んだ幻想にすぎません。
- 実際には外れた予言が多く、当たったとされるものも具体性や再現性に欠けます。
- 非科学的な情報が社会不安を生み、個人の判断力を狂わせ、カルトや詐欺の温床となる危険すらあります。
予言ではなく、信頼できる情報源と科学的知見をもとに、私たちは現実と向き合う必要があります。願わくばこのような騒動が二度と起きず、冷静な判断が社会全体に広まることを願います。