2025年6月22日、ディスカウントスーパー「ラ・ムー」や「ディオ」などを展開する大黒天物産の創業者で会長の大賀昭司(おおが・しょうじ)氏が、呼吸器不全のため68歳で逝去した。
西日本を中心に急成長を遂げ、現在では全国で232店舗以上を展開するラ・ムー。その原点には、創業者・大賀氏の「圧倒的な低価格で、誰もが安心して買い物できる場所を作りたい」という強い信念があった。名物「100円たこ焼き」や激安弁当はその象徴だ。地方の買い物弱者や、コロナ禍・物価高で苦しむ庶民にとって、ラ・ムーは単なるスーパーではなく「生活の支え」でもあった。
■ 大賀氏の経営哲学:徹底したローコストと大量仕入れ
大黒天物産の強みは、大量仕入れによるスケールメリットと、自社工場を活用した内製化戦略にある。惣菜や弁当などは自社生産に切り替え、人件費や原価を抑制。人手不足にも対応できるよう、セルフレジや無人販売も一部導入するなど、現場主義と改革精神が同居するスタイルだった。
2024年5月期には、売上高が過去最高の約2,100億円を超える見込みで、10年以上にわたる連続成長を達成。スーパー業界全体が価格転嫁と人件費増に苦しむ中、ラ・ムーは「圧倒的な価格競争力」で異彩を放っていた。
■ 体制はすでに移行済み、急な混乱はなし
大賀氏は2023年8月に社長職を退き、会長職に専念していた。実質的な経営はすでに新社長らが引き継いでおり、取締役会・監査役会を含めたガバナンス体制も整備済みだ。今回の訃報により市場では一時的な動揺も予想されるが、企業の運営に即時の混乱は見られていない。
むしろ今後問われるのは、「ラ・ムーは創業者の志を維持できるのか」という中長期的なビジョンだ。
■ 今後の展望:ラ・ムーは庶民の味方であり続けられるか?
低価格を支えてきたのは、価格設定だけではない。郊外の広大な土地を利用した巨大店舗、倉庫型の陳列、最小限の装飾、簡素な接客…。どれもが「安く売る」ための戦略であり、安さを求める消費者にとって納得感のある買い物体験となっていた。
ただし、近年は物流費や最低賃金の上昇、労働力不足といった構造的課題に直面しており、今後もこのビジネスモデルを維持できるかどうかは不透明な部分もある。特に、創業者のカリスマ性が抜けたあとの「理念の継承」が鍵となる。
一方で、食料品の高騰や電気代の値上げなど、家計を直撃する要因が増え続けるなか、ラ・ムーのような庶民派スーパーの必要性はむしろ高まっている。競合他社との差別化を維持できれば、新たなニーズも取り込める余地は大きい。
■ まとめ:ラ・ムーが消える日は来ない(と信じたい)
「たこ焼き100円」「弁当198円」――。それは単なる数字ではなく、生活の象徴であり、希望である。
創業者・大賀昭司氏の遺志が企業文化として根付き、今後も庶民の生活を支える「最後の砦」としてのスーパーであり続けることを、多くの人が願っている。訃報は残念であるが、氏が遺した「安さの哲学」は、今後の経営陣によってどう受け継がれるのか。
その答えが見えるのは、これからのラ・ムーの棚に並ぶ商品の値札を見たときかもしれない。