最新版(2025年8月7日内閣府提出)の「中長期の経済財政に関する試算」をもとに、名目GDP成長率からみたインフレ見通し(CPI・GDPデフレーター)と、「国・地方の公債等残高対GDP比」による財政の姿を、過去投影ケース(これまで通りのダラダラしたデフレ状態)/成長移行ケースで整理し、最後に両者の“平均的な姿”も示します。結論からどうぞ。後半にわかりやすい?記事も追加してあります。
結論
- 物価(CPI)の中期見通し
- 財政(国・地方の公債等残高対GDP比)
- 安心度の評価(公平な所見)
- 「極めて安心」までは言い切れません。ただし成長移行ケースの軌道に乗れば、物価は2%で安定・PB黒字化が進み、税率を上げなくとも自然に債務比率は着実に低下します。逆に、過去投影に近い歩みだと、債務比率は再び上向き、安心とは言い難い姿です。(内閣府ホームページ)
1) インフレ見通し(名目成長の内訳として)
- 直近:2025年度CPI 2.4%、2026年度1.9%。(内閣府ホームページ)
- 2027年度以降の中長期:
平均を取った場合(参考)
- CPI:おおむね1.5%(= 1%と2%の中間)。
- GDPデフレーター:1.4%(両ケース一致)。(内閣府ホームページ)
経済学的メモ:家計の実感に近いのはCPI、名目GDPの内訳として整合的なのはデフレーター。将来の名目成長=実質成長+デフレーターで考えると、成長移行の方が名目成長が高く、債務比率の「分母」を強く押し上げます。
2) 日本政府の財政状況(債務対GDP比)
- 直近の推移:2022年度211.6% → 2023年度205.3% → 2024年度201.3%、2025年度201.0%、2026年度197.1%とまずは低下。(内閣府ホームページ)
- その後の中期シナリオ:
平均を取った場合
- 2034年度の平均的な債務比率 ≒ (202.0% + 173.6%)/2 = 187.8%。
※ 一つの“中央的”見方にはなりますが、政策実現度合いで上下に大きく振れうる点にご注意。
3) 「極めて安心」と言えるか?
- 成長移行ケースの前提(賃上げ持続、投資拡大、TFP押上げなど)が実現すれば、
- CPIは2%で安定、2) PBは黒字化が拡大、3) 債務比率は一貫して低下――という“改善シナリオ”が成立します。(内閣府ホームページ)
- しかし、過去投影ケースに近い現実なら、
- インフレは1%どまり、2) 金利上昇に対し名目成長の力不足、3) 債務比率は再上昇――で、「極めて安心」とは評価できません。(内閣府ホームページ)
よって、現時点の公平な評価は「安心度は“成長移行の実現度次第”」。試算は政策実行と成長移行の実現を前提に十分改善可能な姿を示しますが、自動的に“極めて安心”になるわけではない、が妥当です。
参考データ(抜粋)
- CPI:2025年度2.4%、2026年度1.9%。以降は成長移行=2%程度、過去投影=1%程度。(内閣府ホームページ)
- GDPデフレーター(成長移行・高成長実現):2025年度2.6% → 2026年度1.8% → 2027年度以降1.4%程度。(内閣府ホームページ)
- 公債等残高対GDP比:
分かりやすい内容(?)
1) 物価(インフレ率)はどうなりそう?
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直近の見通し:2025年度 2.4%前後、2026年度 1.9%前後(いずれもCPI=消費者物価指数)。内閣府ホームページ
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その後:
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過去投影ケース → 中長期で約1%に収れん。
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成長移行ケース → 中長期で約2%を安定維持。内閣府ホームページ
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したがって「平均的」には中長期の物価上昇率はおおむね
1.5%前後(= 1% と 2% の中間イメージ)と見るのが自然です。
※GDPデフレーター(国内総生産の物価)も中長期で約0.4%(過去投影)と約1.4%(成長移行)なので、平均像は約0.9%ほど。名目成長率の内訳(=実質成長+物価)とも整合的です。内閣府ホームページ
2) 我々の生活にはどう響く?
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給与:物価が年1.5%前後で落ち着き、成長移行寄りなら賃上げが物価をやや上回る設計(政府想定)なので、手取りの実感はじわっとプラスに寄りやすい。失速すれば実質は伸び悩み。内閣府ホームページ
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金利:平均像では長期金利は1%台半ば(過去投影)~3%台前半(成長移行)に収れん。住宅ローン等の固定金利は今より上がる可能性はあるが、成長や賃上げも並行する分、家計全体のバランス次第。内閣府ホームページ
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資産:インフレがゼロ近辺から1~2%で安定する局面では、現金の実質価値は少しずつ目減り。預貯金だけに偏らず、家計のリスク許容度に応じて分散投資の重要性が増す局面です(一般論)。
3) 日本の財政はどうなる?
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公債等残高対GDP比(いわゆる「借金の重さ」)
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平均的に見れば、ほぼ横ばい~やや改善のイメージ。
成長移行に近づくほど債務ははっきり減る一方、過去投影に留まるとあまり減らない。 -
基礎的財政収支(PB)は、成長移行ケースでは黒字幅を拡大(1%台へ)、過去投影でも改善~均衡近辺まで詰まる想定。平均像ではおおむね均衡~小幅黒字と理解できます(本文・表より)。内閣府ホームページ+1
結論(公平に):
「極めて安心」と断言するのは早計ですが、成長移行寄り(賃上げ・投資が続く)なら持続性ははっきり強い。一方で、過去投影に留まると”現状維持に近い”。したがって政策・賃上げ・投資が回り続けるかがカギ、という評価です。内閣府ホームページ
4) ドーマー条件でみる「金利の限界」
債務比率 bb(=公債等残高/GDP)が悪化しないための条件は
r≤g+PBbr \le g + \frac{\text{PB}}{b}
です(rr:名目金利、gg:名目GDP成長率、PB:基礎的財政収支/GDP)。直感的には、名目成長率が高い・PBが黒字・債務比率が下がるほど、許容できる金利は高くなるという意味です。
平均像(ざっくり)で計算してみます:
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名目成長率 gg:過去投影の中長期が0%台後半、成長移行が2%台後半 ⇒ 平均で約1.8~1.9%。
例:2030年前後、表の数値から 0.9%(過去)と3.0%(成長)の中間=1.95%。内閣府ホームページ -
PB:平均像でほぼ均衡~+1%弱。ここではやや保守的に+1.0%と置く(表は成長移行で1%台へ、過去投影は均衡圏に近づく)。内閣府ホームページ
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債務比率 bb:2030年前後で過去投影約198%、成長移行約185% ⇒ 中間で約191%。内閣府ホームページ
すると、
\frac{\text{PB}}{b} \approx \frac{1.0}{191} \approx 0.0052\;(\text{=0.52%}) rmax≈g+PBb≈1.95%+0.52%≈2.47%r_{\max} \approx g + \frac{\text{PB}}{b} \approx 1.95\% + 0.52\% \approx 2.47\%
平均シナリオの「金利の限界」は名目でざっくり 2.5%前後。
感度を見ると:
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成長移行だけに寄れば、g≈2.8%g\approx2.8\%、b≈176%b\approx176\%、PBが1.5~2%へ ⇒
PB/b≈0.9~1.1%\text{PB}/b\approx 0.9~1.1\%。
rmax≈2.8%+(0.9~1.1%)≈3.7~3.9%r_{\max}\approx 2.8\% + (0.9~1.1\%) \approx 3.7~3.9\%。
※実際、同ケースの長期金利は3%台前半に収れんしても債務比率は下がり続ける計算で整合的。内閣府ホームページ+1 -
過去投影だけだと、g≈0.8~0.9%g\approx0.8~0.9\%、PBが+0.5~+0.7%程度、b≈200%b\approx200\% ⇒
PB/b≈0.25~0.35%\text{PB}/b\approx0.25~0.35\%、
rmax≈0.9%+0.25~0.35%≈1.15~1.25%r_{\max}\approx 0.9\% + 0.25~0.35\% \approx 1.15~1.25\%。
⇒ 低成長のままだと、高い金利には耐えにくい。内閣府ホームページ
まとめ
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物価は中長期でだいたい1.5%前後(1%~2%の間)に落ち着く見通し。内閣府ホームページ
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財政は「平均像」では横ばい~やや改善。成長移行に近づくと明確に改善、そこに届かないとほぼ現状維持。「極めて安心」かは、成長・賃上げ・投資が続くかに依存。内閣府ホームページ
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金利の限界(ドーマー条件)は、平均像で名目2.5%前後。
成長移行なら3.7~3.9%でも持ちこたえうる一方、低成長のままだと1.2%前後が上限に近い。内閣府ホームページ
つまり、成長・賃上げ・投資が回り続けるほど、家計は「じわっと豊かに」、財政は「より安心」に、そして金利上昇にも「耐えやすく」なります。逆に、低成長にとどまると、物価は低めでも財政と金利耐性は厳しめ。この違いが、将来の暮らしや政策余地を分けるポイントです。