「月々1万円で新車に乗れる」「最新スマホが月々1,980円」。そんな魅力的な広告に惹かれて契約したけれど、実際には高くついた――そんな経験はないだろうか。
車やスマートフォンを中心に広がる「残価設定型」モデル(通称:残クレ)は、見かけの月額を安く見せるために生まれた新手のローン方式だ。しかしその裏では、自由な利用や乗り換えを妨げ、消費者の選択肢を狭めているのが現実だ。
この記事では、残クレがなぜ企業にとって都合が良く、消費者にとってはリスクになるのかを掘り下げるとともに、真に自由で持続可能な“サブスクリプション”のあり方を考える。
■「月々◯円」の正体は、ただの“ローン+縛り”?
【自動車】トヨタの「残クレ」やKINTO
たとえばトヨタが提供する「残価設定型クレジット(残クレ)」では、3〜5年後の車の価値(残価)をあらかじめ設定し、その分を除いた金額を分割で払う。
一見、月々の支払いが抑えられてお得に見えるが、事故や傷、人気の変化によって想定残価より車の価値が下がれば、差額を請求される可能性がある。さらに、契約期間中は自由に解約できず、車検・税金・保険などは利用者の自己負担だ。
一方で、トヨタの別サービス「KINTO」はカーリースに近いサブスクリプション型。税金・保険・車検がコミコミで、契約終了後は単に返却するだけ。ただしこちらも契約期間中の途中解約には制限があり、完全な自由とは言い難い。
【スマートフォン】ドコモやauの“返却型ローン”
スマホ業界では、ドコモの「いつでもカエドキプログラム」、auの「スマホトクするプログラム」が代表例だ。
これらは、端末の本体価格の一部を“残価”として後ろ倒しにし、2年後に端末を返却すれば支払いが免除されるというもの。
しかし、返却時に傷や破損があれば査定減額され、差額を請求されるケースもある。また、返さずに使い続けたい場合は、残価を一括で支払わなければならない。つまり、「毎月安く使える」と思わせながら、返却も支払いも“縛り”が付いているローンなのだ。
■“残価モデル”が企業にとって都合がいい理由
- 顧客を囲い込める
一度契約すれば、数年後には買い取りか再契約に進むため、顧客が他社へ流出しづらくなる。 - 月額を安く見せられる
残価を差し引くことで、「手が届く価格」と錯覚させやすい。 - 中古再販で二重取り
返却された商品や車は、中古品として再販してさらに利益を得られる。 - リスクを利用者に転嫁
事故・故障・価値下落などのリスクは全て利用者側の責任となる。
■“真のサブスク”とは何か?
サブスクリプションとは本来、「必要なときに必要な期間だけ使える」「途中解約が可能」であることが前提の柔軟なサービス形態だ。
SpotifyやNetflixのように、使わなくなったらいつでもやめられ、追加料金もないのが理想的なサブスクだろう。
しかし、残価モデルは実質ローンでありながら、返却・再契約・追加請求といった制約が多く、サブスクの自由さからは程遠い。表面上の「定額」という見せかけが、消費者をミスリードしているのだ。
■より良い利用モデルを広げるために
消費者にとって本当に望ましいのは、以下のような利用モデルだ:
- 固定費が明確で、途中解約も自由
(例:短期カーシェア、真のレンタル型スマホプラン) - 返却時の査定減額リスクがない
(例:通常のリース・レンタル契約) - 所有と利用の違いが明確に説明されている
(消費者が選択を誤らないようにするため)
同じ月額支払いでも、リスクの所在・契約の柔軟性・最終的な総額コストをよく比較すべきだ。
■お得に見せるビジネスの裏で、自由を奪われていないか?
車もスマホも、「月々いくらで最新モデルに」といううたい文句の多くは、実は残価設定型のローンであり、サブスクリプションとは似て非なるものだ。
しかもそれらは、利用者にとって不利な契約構造のうえに成り立っていることが多い。
残価モデルの拡大は、“真のサブスク”を駆逐する方向に進んでいる。
だからこそ、今こそ消費者が「自由に使えるか」「納得できる仕組みか」を見極め、企業もまた“真にユーザー本位”なモデルを提供する努力が求められる。