『気持ち悪い合理性』の時代──人間はAIに従えるのか?

正しい。でも、気持ち悪い。

今、あらゆる領域でAIが“最適解”を出すようになってきました。

それは将棋、設計、経営、文章、音楽、デザイン──人間の知性が積み上げてきた分野のすべてに及んでいます。

その合理性は、正しく、速く、効率的で、しかも間違いが少ない。

けれど、それを“気持ち悪い”と感じてしまうのはなぜでしょうか?

そこには、人間が育ててきた**「美意識」「文化」「矜持」**と、AIの持つ無機質で異質な“答え”との間に、埋めがたい感覚のギャップが存在しているからです。

しかし、私たちはその違和感から目をそらすのではなく、どう共存し、新たな価値を創出するかを模索するフェーズに入っています。

1. AIとともに、新たな将棋を創造する存在:藤井聡太名人

AI登場後の将棋界では、従来の定石が次々と覆されました。

序盤の形は崩れ、中終盤の戦いは「人間には見えない手」で決まるようになりました。

その最前線に立っているのが、藤井聡太名人です。

彼はAIの手を「ただ模倣する存在」ではなく、AIと対話しながら、人間の直感と融合させてまったく新しい将棋を生み出す存在です。

まさにAIとの“協業”によって、これまでにない地平を切り開いているわけです。

これは、他の業界にも通じる未来のプロトタイプです。

2. かつての矜持が壊れる瞬間──尊厳と定石の崩壊

とはいえ、すべての人がAIとの共存を受け入れられるわけではありません。

長年、自らの頭と経験で構築してきた体系──それがAIによって否定される時、

人間は「自分の価値観や努力が否定された」と感じるものです。

将棋の世界で言えば、旧来の定石や感覚的な美しい手は、AIの“合理的な手”に押し流されていきました。

そしてその背後には、「自分たちの文化が壊れていく」ような恐怖すらあります。

これは、文章執筆、建築設計、企業経営、教育の場でも起こりうることです。

3. 気持ち悪いけど最強──非人間的合理性のもたらす衝撃

AIの出す“最適解”は、論理的には完全です。

しかし、その結論に至るプロセス、構成、見た目、そしてタイミングのどこかが、人間の感性とズレている。

例えば、設計分野では人間が数週間かけてひねり出す構造案を、AIが数分で出してしまう。しかも強度もコストも最適。けれど、その形状はまるで生物のように歪で、人が見て「美しい」と思えない。

こういった「正しいが気持ち悪い設計」が今後ますます社会に増えていくでしょう。

4. 設計・芸術・制度…あらゆる分野で始まる“主導権の移動”

このまま進めば、「設計するのはAI、人間は実行するだけ」という構造が社会全体に広がっていく可能性があります。

法律、物流、金融、医療、教育──これまで人間が考え抜いて決めてきたことを、AIが最短で最適化してくる。

しかし、これに対する違和感をそのままにしておくと、AIによる合理性の波が、私たちの美意識、直感、創造性といった“人間性”そのものを侵食していく恐れもあります。

5. 共創という選択──人間はAIの上にも立てる

では、どうすればいいのか?

答えは「AIに従う」のではなく、「AIとともに創る」ことにあります。

あなたが言われたように、人間には“あり得ないものを組み合わせて新しいアイデアを生み出す”力があります。

これは、AIには真似しにくい人間特有の“飛躍”の力です。そこにこそ、人間の役割が残されています。

藤井名人のように、AIの最善手を取り込みつつも、それを単にコピーせず、人間の感覚・工夫・解釈を乗せて昇華させること。

それが、人間とAIが本当に協業できる未来の姿です。

おわりに──未来は「気持ち悪い合理性」と「気持ちいい創造性」の融合点にある

「気持ち悪い」と感じるのは、人間が“知らなかった正しさ”と向き合った証拠です。

そこに目を背けず、人間の側が“創造力”という異なる武器で応えていくこと──それが、AIとの真の共創の鍵です。

合理性の支配だけではなく、感性と論理、偶然と必然、飛躍と計算──

それらが拮抗し、融合し、新しい価値観が生まれる時代に、私たちは立ち会っているのです。


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