2004年に公開された映画『東京原発』をアマゾンプライムビデオで観た。
一見すると風刺コメディの体裁を取りつつ、実際には露骨な反原発プロパガンダとして機能している作品だ。
都知事が「東京に原発を作る」と言い出したことをきっかけに、都庁内部で繰り広げられる騒動を描いているが、その内容は極端に偏った一方向のメッセージに満ちている。
“リアリティ”の仮面をかぶった感情的な演出
『東京原発』は、原子力にまつわる問題をある程度現実に即して描いているように見せかけながら、実際には過去の事故の引用や極端な危険描写ばかりが目立ち、バランスを欠いている。特に象徴的なのが、プルトニウムの陸送シーン。実際には徹底した安全対策と厳重な管理の下で行われるものを、まるで時限爆弾を積んだトラックのように描き、不安と恐怖を煽る手法は、もはやコメディの域を超え、科学的知識や冷静な議論を拒絶する“情動優先主義”の表れに思える。
さらに、映画内では原発の恩恵や必要性、あるいは代替エネルギーの現実的限界といった反証的視点が意図的に排除されている。その偏向ぶりは、まるで「火は危ないから使わない」と言わんばかりの、進歩そのものを否定する思想すら感じられる。
恐怖を超えて、現実と向き合うための作品たち
原子力の是非は感情で決めるものではない。だからこそ、科学的知見と現実的なエネルギー政策の視点から原発を見つめ直す作品にも目を向けるべきだ。以下は、そうした「恐怖の感情」ではなく、「理性と現実」に立脚して制作された優れた作品群である。
『Pandora’s Promise(パンドラの約束)』(2013年/米)
かつて反原発だった環境活動家たちが、地球温暖化とエネルギー問題を真剣に考える中で原発の必要性を再評価していくドキュメンタリー。感情ではなくデータと科学を基に議論を進める姿勢は、今の日本にこそ必要な視点だ。
『Inside Fukushima』(2021年/NHKスペシャル)
福島第一原発事故後の現場や廃炉作業を丹念に取材し、「原発事故=終わり」ではなく、「事故から何を学び、どう前に進むか」という冷静な問いを投げかける実録ドキュメンタリー。
『チェルノブイリ1986』(2021年/ロシア)
事故対応に当たった人々の人間ドラマを描きつつ、旧ソ連の技術的欠陥や政治体制の問題に焦点を当てる。単なる恐怖映画ではなく、事故の背景にある構造的問題を探る誠実な姿勢が光る。
NHKスペシャル『メルトダウン File.5 原子力規制を問う』
福島の教訓をもとに、日本の原子力行政がどう変わったか、あるいは変われなかったかを検証する良質な報道番組。制度と科学技術の狭間にある「現実の難しさ」を丁寧に描いている。
感情に流されず、理性で考えるべき時代に
『東京原発』のような作品が一定の共感を集めるのは理解できる。日本社会における「不安」や「不信」が根深く存在するからだ。しかし、その不安を煽るだけでは現実は動かない。我々が必要としているのは、恐怖の強調ではなく、冷静な視座と将来を見据えた議論である。
原発の是非を問うなら、まずは感情のプロパガンダから一歩引き、こうした誠実な作品と向き合ってみることをお勧めしたい。
